世界で3億5千万人のプレイヤーを抱える人気ゲーム「フォートナイト」を開発するEpic GamesがAppleやGoogleを提訴したことが話題になっています。
ということで今回は、「フォートナイト」をめぐるAppleとEpic Gamesの係争を軸に、プラットフォーマーの手数料問題について考察してみたいと思います。
「フォートナイト」配信停止事件の概要
事件の経緯
事件の経緯は以下のようなものです。
プラットフォーマーとサービス・プロバイダー間の、アプリ配信に関するもめごとに関するケースですね。
対立の理由
今回の対立の直接的な理由は、プラットフォーマーの課金システムを介さない、独自の課金システムに対する報復としてのアプリの配信停止です。
ただこれは元をただせばプラットフォーマーの課金システムで徴収される手数料の存在に帰結するでしょう。
Epic Gamesが、AppleのiOSの場合30%と言われれる課金時の手数料が妥当であると考えていれば、そもそも別の課金システムを導入することはなかったと考えられるからです。
Appleが開示したEpic Gamesとのメールからも、手数料に関して優遇措置を取るよう訴えていたことがわかります。
Epic Gamesはこの訴えをAppleに退けられたことで、独自の課金システム導入に舵を切ったものと思われます。
かつてIBMに挑んだAppleが挑まれる立場に
今回の事件で私がおもしろいと感じたポイントは、過去にAppleがEpic Games側の立場、つまりプラットフォーマーを訴える立場で、似たようなプロパガンダを展開したことがあり、Epic Gamesはそれを蒸し返して皮肉っているところです。
かつてIBMの独占を嫌ったAppleは、圧政者に立ち向かうイメージCMを作成しました。
そしてEpic Gamesはそれをパロディ化し、まったく同じ展開のCMを作成することで、今やAppleがIBMと同じく圧政者になっていることを皮肉っています。
Epic GamesはApp Storeの独占に異議を唱えました。報復として、Appleは10億のデバイスでFortniteをブロックしています。https://t.co/VwLAHlzLap へアクセスし、2020年を「1984」にしないための闘いに参加してください。 pic.twitter.com/LSKyXiXQVA
— フォートナイト (@FortniteJP) August 13, 2020
なかなかウィットの効いたCMです。
双方の立場から見た手数料の妥当性
さてEpic Gamesが訴えた相手にはGoogleも入っていますが、ここでは一旦、Appleとの対立にまとを絞って議論を展開したいと思います。
Apple側から見た場合
ユーザーが快適に使える堅牢なシステムを利用するため
AppleはiOSのセキュリティやサーバーなどのシステムに膨大な費用を払って、ユーザーが安全かつ快適にアプリを使える基盤を提供しています。
またアプリ提供者がiOSの基盤でシステムを開発できるようなサポートや仕組みも整えています。
この基盤やサポート体制を活用してゲームを提供できるということは、アプリ提供者側には大きなメリットであり、これに対する手数料は当然、必要になってきます。
Appleのブランド力を利用するため
30%の手数料は、Appleという世界的に1、2を争うブランドのプラットフォームを使う手数料と考えることができます。
名もないゲームメーカーがいきなり何億、何十億という世界のユーザーにゲームを届けるためには、流通の仕組みが必要です。
AppleのiOSに載せるアプリとしてゲームを開発すれば、自分たちでその仕組みを作ることなく、こうした膨大なユーザーにゲームを届けることができるわけで、そこにはそれ相応の費用が発生するのは当然と言えば当然でしょう。
Epic Games側から見た場合
一方Epic Games側からすれば、手数料は発生するにしても、Epic Gamesのような人気ソフトを持つメーカーでも名もない弱小メーカーであっても、手数料の金額が一律30%というのはおかしいと考えるのも不思議ではありません。
また30%という金額は回りまわってユーザーに対する課金となり、ユーザーにとっても高い料金を徴収されていることになり、ユーザーが不当に搾取されているのを見逃してしまっているとも言えます。
手数料「30%」は果たして本当に高すぎるのか
争点は30%の「プラットフォーム税」が果たして本当に高すぎるにか、それとも妥当な金額なのか、になりますが、これはApple側のブランド力をどう評価するかによってくると思いますので、なかなか一概に高いか妥当かは言えないでしょう。
結局、双方がどこかで折り合いをつける必要があると思います。
私が考える妥協点としては、アプリの提供者側が持つブランド力や過去の取引実績、アプリが抱えるユーザー数を基に、30%から段階的に減額する措置を取ることです。
アプリの提供者側にブランド力があるならAppleのブランド力だけに頼ってユーザーを集めているとはいえず、またユーザー数が多ければそれだけAppleに入る手数料も多いわけですから、ビッグネーム・ディスカウントやボリューム・ディスカウントをしてもよいのではと考えます。
現にAppleはAmazonに対してはディスカウントをしているようですので、この取引方法が異例というわけでもないようです。
展開の行方
さて、今後の展開が気になるところですが、これにはAppleやGoogle、Epic Games以外のステークホルダーたちの動向も関係してくるでしょう。
そのステークホルダーとは「政府」と「他のアプリ提供会社」です。
政府もGAFAの市場独占を警戒している
政府も、GAFAをはじめとするプラットフォーマーの独占的な行為には監視の目を光らせており、先日もGAFAに対する公聴会を開いたばかりです。
今回の事件がさらに大きな係争になったり、独占的な地位を乱用していると判断されたりすれば、政府や委員会が公聴会や調査に乗り出す展開になってもおかしくありません。
この点、Appleは難しいかじ取りを迫られています。
他の企業も追随する可能性
上に挙げた日経の記事『「アップルの手数料」、不満相次ぐ 妥協点は見えず』にもありますが、アメリカのメディア団体やFacebookがAppleに対して手数料の減額を求めたという話が載っています。
AppleとEpic Gamesと係争の帰趨しだいですが、今後も手数料の減額を求める企業は出てくるでしょう。
またスーパーアプリ化を狙っている企業の動きも気になります。
スーパーアプリ化も、結局のところ、手数料の回避を狙った戦略であり、少なからず今回の騒動に影響を受けると考えられます。
おそらくはスーパーアプリ化の流れをさらに加速する方に向かうのではないかと予想します。
Appleが、Googleが、政府が、そして他の企業が今後どう出るか、要注目です。
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ひとことポイント
・プラットフォーマーはアプリ提供者側のブランド力やユーザー数に応じてディスカウントするべき
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